PHA短信(第63号) 

PHA短信

テーマ 新たな日常に向けた成長戦略の考え方

1.成長戦略実行計画

政府は、令和3年6月にコロナ禍から回復する成長戦略の指針である「成長戦略実行計画」を発表しました。今回は、「成長戦略実行計画」の第1章で述べられている我が国の労働生産性の問題点と、その解決のための計画の内容を一部ご紹介します。    

2.日本の労働生産性は、G7諸国の中で最も低い

経済成長率(GDP)を※1労働参加率の伸び率+※2労働生産性の伸び率と定義して計算すると、日本の経済成長率(1.1%)= 労働参加率の伸び率0.8% + 労働生産性の伸び率0.3%と分解できます。
※1:労働参加率= 就業者数を人口で割った率
※2:労働生産性= GDPを就業者数で割った数値

労働参加率の伸び率(0.8%)は、女性や高齢者の就業拡大の影響もあり、G7諸国の中で最も高いのですが、労働生産性の伸び率(0.3%)は、G7諸国の中で最も低い水準となっています。
また、労働生産性の向上は、製造コストの何倍で販売できているかを示すマークアップ率(販売価格/限界費用)が重要指標ですが、日本は1.3倍であり、G7諸国の中で最も低い水準となっています。
さらに、OECD調査によると、新製品や新サービスを投入した企業の割合は、先進国の中で日本が最も低い水準となっています。
「成長戦略実行計画」では、労働生産性の上昇は労働者の実質賃金の上昇と密接な関係があり、実質賃金を引き上げていくためにもその改善が必要であること、労働生産性向上の鍵は、イノベーション(社会にインパクトのある変革をもたらすこと)である。と述べられています。

 しかし我が国は、コスト削減による過去の「成功体験」から抜け出せておらず、G7諸国の中で最もイノベーションの創出機会が少ない国となっています。

 この状況を打破して、新たな成長機会を得るための方策として「デジタル化投資」、「グリーン成長戦略」、「人への投資の強化」、「事業再構築・事業再生の環境整備」、「イノベーションへの投資強化」など約15種類の施策が記載されていますので、各施策の中から重要と思われるモノを抜粋して以下にご紹介します。

3.事業再構築・事業再生の環境整備

新しく「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が令和4年4月15日より施行されました。
ガイドラインでは「平時」と「有事」における留意事項が定められているのが特徴です。
「平時」の中小企業は、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保に努めることが求められています。「有事」においては、「本源的な収益力の回復」が必要不可欠です。債務返済猶予や債務減免等によって借入金の負担が軽減されたとしても「平時」に有していた収益力と同水準を確保するだけでは、抜本的な事業再生を行うことはできません。ポストコロナを見据えた成長を実現するためには、中小企業自身が、自律的・継続的な成長に向けて、収益力の回復に取り組むことが必要です。

4.足腰の強い中小企業の構築

 コロナ禍の影響を受ける中小企業の事業継続の支援に万全を期すとともに、事業再構築に取り組む中小企業を支援するため、事業再構築補助金の見直しを図ること、大企業と中小企業との取引の適正化のために、監督体制を強化すること、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進するため、まず下請代金の支払に係る約束手形の支払サイトについて60日以内への短縮化を推進する。さらに、小切手の全面的な電子化を図ることが述べられています。

5.経営支援の高度化

コロナ禍から立ち上がろうとする事業者が、適切な経営支援を受けられるよう、各地域で民間も含む支援機関のネットワークを構築するとともに、個々の支援機関の専門性等の見える化を図ること、身近な支援機関である中小企業診断士に求められる専門分野の見える化を進めることが述べられています。  令和時代の中小企業の生産性向上のカギは、「業務のデジタル化」「生産プロセスの自動化」「サービスプラットフォーム(クラウド型外注業務)の活用」です。まずは最寄りの中小企業支援機関(商工会議所や商工会)にご相談してみることをお勧めします。   

(個人正会員 秋 松郎)

 コラム

 「円安の進行が止まらないね」「そうだね。日本では円安の原因を日米の金利差のみで説明しているが、国際通貨研究所の渡辺博史理事長は、日米の金利差は要因の一つだが、国力の衰退を反映していると言っているよ」「どういうことなの?」「米ロと異なり、日本はエネルギーと食糧の確保に脆弱性を抱えている。そのことが反映している、と言っているよ」「そうかあ」「もっと根本的な経済対策を講じるべきだね」
(広報分科会員 金子一郎)