PHA短信(第66号) 

PHA短信

令和5年3月1日

テーマ (環境変化に対応するための)両利きの経営

Ⅰ近年の環境変化
  新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されてから3年が経過し、ようやく5類への移行が進みかけている。またこの間に、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、事業環境は大きく様変わりしてきた。原油価格、原材料価格の高騰により物価高や円安が進んだことに加え、コロナ禍における在宅勤務の増加や働き方の見直し、それに伴うオンライン取引の増加等の動きがみられる。
  近年のDX化やグローバル化の益々の進展と合わせて、このような環境変化に企業はどのように対応していくべきであろうか?

Ⅱ両利きの経営とは?
 少し前になるが、『両利きの経営』という本が流行ったので読まれた方も多いと思う。
 なぜ流行ったのか?そこには近年の外部環境変化に対応する重要な示唆が含まれているからだと考えられる。ここで、簡単に『両利きの経営』からその概要を振り返りたい。
 両利きの経営とは、「主に『探索(exploration)』と『深化(exploitation)』という活動が、バランスよく高い次元で取れていることを指す。なるべく自身・自社の既存の認知の範囲を越えて、遠くに認知を広げていこうという行為が『探索』であり、成功しそうなものを見極めて、それを深掘りし、磨き込んでいく活動が『深化』である。」「成熟事業の成功要因は漸進型(インクリメンタル)の改善、顧客への細心の注意、厳密な実行であるが、新興事業の成功要因はスピード、柔軟性、ミスへの耐性である。その両方ができる組織能力(ケイパビリティ)を『両利きの経営』と呼んでいる。」
IT、グローバル化の進展等、外部環境が大きく変化する中、これらに対応していくことが求められる。一昔前までは、同じ取引先に対して同じ製品・サービスを品質、原価、納期を漸進的(インクリメンタル)に改善しながら提供することが主流であった。しかしながら、現在、このやり方のみでは持続的発展に懸念が生じることになる。コダックの破綻と富士フィルムの成長をもたらした対応の違いが顕著な例として取り上げられている。
では、『両利きの経営』ではこのような環境変化にどのように対応すべきとしているのだろうか?

Ⅲ実践するためには
『両利きの経営』で、探索と深化に対応するために下記の点等が示されている。
 1.マネジメントとリーダーシップの違いの認識
  マネジメント(≒深化)とは確実に実践することであり、リーダーシップ(≒探索)とは戦略と変
革を扱うものである。つまり、組織内には両方のバランスが必要になる。
 2.探索と深化におけるKSF(主要成功要因)の違い
  従来型の深化では、効率性と漸進型改善がKSFであった。環境変化に対応するためには探索が必
要となり、そのKSFは、①新しい事業コンセプトとビジネスモデルの実証、②市場セグメントと顧
客の特定、③実行に必要な組織の能力開発、である。重要なのは、スピード、自発性、適応力である。
 経営資源が豊富にある大企業では、探索部署を持つことも可能であるが、成功体験によるサクセストラップ、組織の硬直性をいかに打破するかが問われることになる。中小企業においては、トップの意識により外部環境に対して機動的な動きを行うことも可能である。しかしながら、トップ自ら日常業務を指揮することも多いため、戦略計画を描くための時間が必要となる。

 しばしば、トップ・幹部の右腕になるものが必要といわれている。確かに必要であるが、右腕になるものがいれば楽に仕事を進めることができるということだけではない。トップの業務量を軽くし、その分だけ新分野展開を計画する必要があることを認識しなければならない。
<参考文献>
 O’Reilly Ⅲ,C.A. & Tushman,M.L.(2016)Lead and Disrupt : How to Solve the Innovator’s
 Dilemma, the Board of Trustees of the Leland Stanford Junior University.
(入山章栄監訳・解説,冨山和彦解説,渡部典子訳(2019)『両利きの経営』東洋経済新報社).
(登録会員 藤原正幸)

 コラム

日銀の黒田総裁が代わるね」「そうだね。歴代総裁で一番任期が長くアベノミクスと共にあった総裁だね。」「次期総裁は?」「現在国会に提案されている経済学者の植田和男氏だよ。日銀理事を務め、世界的にも著名な学者だよ」「現在の政策が変わるの?」「引き続き消費者物価指数2%程度の実現を目指し、現在の金利水準を維持することを表明しているが、状況の推移も見極めるとも言っているよ」「そうかあ」
(広報分科会員 金子一郎)

寸鉄:社長と部下との関係:社長と部下との関係は、太陽とその周りの遊星のようなもの
である。遠心力もあれば求心力もある。その関係はお互いに機能的でなければならない。
思い切った計画を立てる自由、未知の分野を開拓する自由、提案に反対されても反論す
る自由、危険を冒す自由、失敗をする自由が与えられていることが必要である。
「土光敏夫信念の言葉」より