PHA短信(第70号) 

PHA短信

令和5年7月1日

テーマ 人的資本経営とは

1.失われた30年で置き去りにされた人への投資

 日本経済の「失われた30年」の大きな課題として、人材投資を置き去りにしてきたことが指摘できます。東証一部上場企業の内部留保が過去最大となった時期でも、企業は、過去の「成功体験」からコスト競争に偏重した経営方針を改めず、合理化、省力化を目的として、工程や作業を自動化する設備投資を重視し、人材はコストカット対象として人員整理や教育訓練費の削減を繰り返し行ってきました。そのツケとして、現在は多くの企業が働き手の高齢化、属人化、人手不足の状況に陥っています。

一方、海外企業は、人材投資とチーム活動で研究開発投資を促進し、中核人材を育て上げて、新しいビジネスモデルを立ち上げるイノベーションに果敢に挑戦している企業が多いのです。

大切なことは、競争・効率化偏重の経営では将来の「中核人材」が育たないことです。(下図参照)

2.デジタル化投資と人材投資は車の両輪

  最近の流行キーワードであるDX化やデジタル化で生産性を改善しようとする試みが、多くの企業で挫折しているのは、「人材投資」という目線が欠けており、従業員を巻き込めていないためです。

「デジタル投資」と「人材投資」は車の両輪であり、片方が欠けていると企業は直進できないのです。

G7先進国の中でOJT以外の人材投資は、日本が最下位の状況が長年続いており、従業員エンゲージメント指数(会社への熱意や愛着度)も世界平均20%と比較して日本は5%以下と最下位です。

従業員のモチベーション(貢献意欲)を引き上げる仕組みが求められています。

3.人的資本経営が目指すもの

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です(経済産業省)

人的資本経営の考え方は、世界最大の投資会社である米国バロックス社会長が2018年に提言した、
「パーパス経営」の考え方から派生しました。

パーパスとは、 ステークホルダーのためにいかなる価値を創造するか、企業の存在理由を示す言葉です。企業の長期的発展のため、財務パフォーマンスだけでなく社会のために価値を創造することが重要だとし、従来の利益最大化が企業の目的だとする考え方に警鐘を鳴らしています。

その結果、投資におけるESG(環境・社会・ガバナンス)での企業評価が、今後ますます重要になって来ると考えられます。

近年は、人工知能やAIがビジネスモデルを革新するキーワードとして流行していますが、その実現に不可欠なITエンジニア系人材が大幅に不足している事実や、国内のIT人材不足を解消するための具体的な方針は積極的に議論されていません。これでは、失われた30年間で人材投資を軽視して失敗した教訓が生かされないことにならないか非常に懸念に思います。

機械(AI)は、過去の実績データを分析し効率化を提案することはできますが「未来を創造」する能力はありません。人間社会の「より良い未来を創造する」仕事は、人間にしか出来ない役割なのです。

そのためには、「中核人材」という経営資源が不可欠です。中小企業も商工会議所のセミナーや経営相談等を積極的に活用して、次世代の「中核人材を」育てる方針を立てて、その仕組み創りに挑戦していく必要があります。                                        (個人正会員 秋 松郎)

 コラム

「5/8からコロナ区分が2類から5類に変更になったね」
「そうだね。コロナもインフルエンザ等と同じ扱いになり、普通の病院でも扱えることになったということだよ。」「コロナはもう怖くなくなったの?」「いや、現在でもコロナの被罹者は増えているよ。
飲み薬は未だ普及していないし、罹っても1週間も経てば治るけど、
後遺症(気力減退等)が結構やっかいらしいよ」「そうかア、依然注意が必要だね」「特に手洗いは小まめに実行した方が良いよ」  
(広報分科会員 金子一郎)

寸鉄:行雲流水:一切のものに執着することなく生きることである。:禅のことば